このページでは、僕がものすごく感動したエピソードをご紹介します。

アイルランドに着いたばかりの僕は、予想通り英語がほとんどわからず、気が滅入っていました。自分が言いたいことは言えるが相手の言うことがあまりわからないのです。そもそも三流大学をギリギリで卒業し、英語もどちらかというと苦手でした。これくらいは予想していましたが、少しブルーな気分になっていたのです。

そのブルーな気持ちを晴らしてくれたのは、後で知ったのですが、生活保護を受けているアイルランド人でした。彼は収入が少なく、政府からの援助を受けて生活をしました。政府は収入がない人をB&Bなどに期間を決めて宿泊させる援助を行っているようでした。

彼の名はダーモット。僕は彼に出会えたことを本当に感謝しています。

↓ダーモットと若かりし僕
ダーモットと若かりし僕

大阪からダブリンについて二晩目、オコンネルストリート沿いのB&Bに宿泊していました。時差ぼけがひどい僕は夜中の2時ごろにロビー近くのTVルームでシェイクスピアのアニメを見ていたのです。

すると、一人の男性が部屋に入ってきました。くたびれた服装、年は30代前半でしょうか。少し酔っ払っているようでしだ。

軽く挨拶をすると彼は僕に話しかけてきました。・・・聞き取れず、ほとんど理解できなかったので、「英語があまりわからないのです」というと、彼は少し何か考える表情をしましたが、かまわずさらに話しかけてきました。僕も何か聞き取ろうとして必死でした。

彼:「どこから来たの?」

僕:「日本です。大阪です」

彼:「何のために?」

僕:「アイルランド音楽が好きで。」

彼:「どれくらいの期間滞在するの?」

僕:「だいたい3ヶ月ほど。8月末ぐらいに日本に帰ります」

なんてかろうじて会話が成り立っているようでした。

彼はフレンドリーな感じで話してくれますが、それからの彼の英語はどんどん早くなっていき、僕は聞き取れなくなっていきました。僕の頭は、英語に拒絶反応をしだしました。「すみません、わかりません」という言葉を何回か繰り返しました。

すると、彼はおどけたような顔をして、こう言いました。

「君はもうすでに英語を話しているよ。理解できない時は、もっとゆっくり話してください、と言うべきだよ。10人中3人は善い人だから、きっとわかるように話してくれるよ。もちろん、僕もね。」

僕は、ものすごく感動しました。さらに彼は、僕にノートとペン、辞書を部屋に取りに行かせました。彼は、僕のノートに人の顔のようなものを書いて僕に見せます。

ダーモットが書いた笑顔の人

彼:「この絵は何に見える?」

僕:「笑っている顔」

彼:「ほらね、人はそんなに違いはないよ。」

僕は、ちょっと涙が出そうになりました。彼とは、そのまま楽しく朝までいろいろなことを話してとてもなかよくなりました。

日本に帰ってこの旅を振り返った時に、彼との出会いが本当のアイルランドとの出会いだったのだと思います。彼のおかげでアイルランドの旅、僕の冒険は始まったのです。